三題噺 #001

投稿日:
20160703 S.Kawano

 

どれだけ進んでもいばらの生垣は両脇に屹立していた。あまりに高いので天を見通すこともできない。いばらの蔓は太く堅く木質化していて、脅迫する短剣のような棘がぎっしりと生えている。棘の隙間を埋めるように肉厚の薔薇が咲き誇り、一部は早くも花弁を落として果実を爛熟させている。

もう何度も分かれ道を繰りかえしたために場所も方角も分からない。腹が空いたときは薔薇の実を齧るしかないが、甘ったるい果汁が喉を焼く。飢えより渇きの方が苦しいので、もう何を口にするのも止めてしまった。立ち止まっているわけにはいかないので脚を引き摺って進む。

角を曲がると、翼を持った半獣が寝そべって道を塞いでいる。襲われるのかと身構えたが、威嚇するような様子はない。真っ白な髪の毛が艶やかに波打っているのが幻想的で美しい。

近づくと半獣は眠たげにこちらを見上げ、しかし明瞭な声で囁いた。

「入口はないのにひとつだけ出口のあるものは何でしょう」

それを聞いて思わず笑みがこぼれる。こんな場所に迷い込む者なら、誰しも最初から分かっている。

半獣の耳元に唇を寄せて、答えを告げた。

「行きなさい」

半獣は立ち上がって道を譲る。その脇を通り抜けると、決定的な変化が始まった。

自分は一歩たりとも動いていないのに、両脇の生垣が来た道を巻き戻るようにして急速に後退してゆく。随分と長いあいだ生垣の後退は続いて、それから段々といばらの蔓が和らぎ始める。堅く乾いた表皮は水気を帯びて青くなり、壁は上方から順にほどけて高さを失う。遂には自分の目線で迷路を見渡せるほど生垣は低くなり、今度は遠方から順に平面的な収束を始める。無限に広がるように見えた青い幾何学模様は吸いこまれるように縮小して、最後には目の前の地面から一筋の茎がのびるばかりになった。

茎の先には赤く爛れた薔薇の実がひとつ生っていたが、みるみるうちに青く引き締まる。さらにどこからともなく白い花弁をまとい、ゆっくりとそれを閉ざしていく。

「やっと見つけた」

そう呟いて薔薇を手折った自分の右手も、既に随分と小さい。

出口 – N
つぼみ – Y
SINGLE – X

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