三題噺 #007

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20160821 S. Kawano

真夏の入道雲の裏側にはまっしろな大理石でできた荘厳な城がそびえていて、夏休みに暇を持てあました子どもたちは人知れずその城に通っている。城に足を踏み入れたらばランドセルはいくつもひきつれを作りながら牛になって生き返り、綿も絹も生命を取り戻して等しく空の風を謳歌する。天の城はあらゆる擬制を看過しない。

子どもたちは霞の衣をまとってトランポリンで遊ぶみたいに雲と城の上を駆けめぐり、そしてシロフクロウが眠る尖塔に辿りつくと、その明朗な寝言から多くを学ぶ。夜には地上で狩りをするフクロウたちは、昼日中は尖塔で眠りこみ、眠りながらも教示を垂れる。そこはいわば天空の林間学校で、フクロウの教えによれば、子どもが天上で駆けるとき宇宙のすべてはその後方に逃げ去るが、子どもが地上で眠り始めるとひそかにあたりに戻ってくるのである。

雷鳴のとどろく晩には決まって広間で舞踏会が催される。多くの子どもは夜には家へ帰るけれども、雷雨がくるのを見計らった狡猾な子どもはじっと粘って待っている。いよいよ雷鳴が鼓膜を震わし始めると、おどろおどろしさに子どもたちは揃って戦慄するが、しかし濡れた空気を切り裂いて稲妻が地上へ落下していくさまは虹も日の出も敵わぬほど美しい。子どもたちはその光の散乱にのみ耳を澄ませおうと努める。稲妻が奏でるのは雷鳴とは似ても似つかぬ清明な楽曲である。

昂奮に頬を染めた子どもがひとりまたひとりとダンスフロアに躍り出て、光に任せて身をくねらせる。まとった霞は金色に華やいで子どもたちを照らし出し、笑顔のふちを陰翳で飾り立て、それでも多くの子どもは怖々とフロアを眺めるばかりである。身体を震わせるような重低音を克服しなければ、手足は自由に動かない。

金色の霞は彼らの身体を導くように伸縮して、彼らを稲妻の背に乗せる。導かれた子どもたちは歓喜の声を漏らしながら地上へと誘われる。それは猛スピードで空中を駆ける。どこに落ちたのかと残された子どもたちは下を覗きこむけれども、たいていの場合ひどい雨が地上付近をけぶらしている。ひとたび稲妻に乗った子は、ふたたび天の城を訪れない。

ある日の明け方フクロウたちが狩りから戻ってくると、掠れた呼吸をする子どもが冷たい床に横たわっている。あんたは随分長くここにいたね、とフクロウたちは語りかけ、大きな音は苦手なもんでね、としわがれた声で子どもは答える。時たまあんたみたいなやつがいるんだよ、と言いながら、数羽のフクロウが鈎爪を使って子どもを持ち上げ、高々と放り投げる。子どもは青空に吸い込まれるようにして加速度的に地球を離れて消えていく。

羅針盤 – N
オリーブ – Y
BODY – X

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